ときどき、私は動物園で働いているのかと思うことがある。人のことなどお構いなしに自由に振る舞う奔放なキャラクターの人が多いのだ。

就業前にスタッフ休憩室で、ビヨンセなどのちょっと前のポップミュージックを大音量で聴いている人(なぜかこのときはサングラスをかけている)、就業前後に口笛を吹き鳴らして歩き回る人(けっこう上手だが建物中に響き渡る)、そして休憩室の電子レンジでラップもなしで焼き魚を温める人などなど。カレーを温める人は少なからずいるが、焼き魚の匂いはかなりキツく、みなでバタバタと窓を開けて換気をするのだが当人はまったく気づく様子がない。

先日も、ここは本当に仕事をする場所なのか、とわが目を疑いたくなるような出来事があった。

休憩室で普段より早い時間帯に昼食を取っていたときのこと。ダブリン出身の女性の清掃スタッフ2人がおしゃべりをしていた。そのうちのひとりが、掃除機をかけるために部屋の奥に置かれた3人掛けソファを動かしたのだが、すぐに「何これ?」と悲鳴のような大声を出した。

何だ何だ、と私がスマホの画面から目を上げると、彼女は黒いブラジャーを手に持って「信じられない…」と天を仰いでいた。もうひとりも目をむいている。

ちょ、ちょっと、何でブラジャーが休憩室にあるの。しかもソファの背後に落ちていたなんて…。何も想像したくない。

しかし、そのブラはまだ値札が貼られた新品だった。私たちアラフィフ女性3人は声を潜める必要を感じなくなり、いかがわしいというよりも単純に謎だわ、と大笑い。サイズを読み上げて「私には大きすぎる」「いや私には小さすぎる」と言い合う2人に私はさらに目に涙がにじむほど笑った。

そこへ、新人の清掃スタッフが入ってきた。ちょうど朝と午後の清掃スタッフの入れ替えの時間なのだ。去年、少しもめごとがあって以来病欠をしていた清掃スタッフが結局辞めて、その代わりに雇われたのがまだ20代のこの女性。彼女の英語はかなり達者だ。

「こんなものを見つけたのよ、どこにあったと思う?」と私たちが見せると、彼女は「あ、それこのあいだソファの後ろにあったのを見つけたけど、誰かが取りに来るかと思ってそのままにしておいた」と平然と言った。私たちは「何で戻すのよ」「まあ『これ誰の』って聞いて回るのもねえ」とまた興奮した。

こうしたやりとりが行われているあいだ、男性スタッフ数人が個々に休憩室に入ってきて、コーヒーを淹れたり後で食べるランチを冷蔵庫にしまったりしていたが、彼らはやかましい私たちを一瞥すると、何も言わずに去って行った。「ここは動物園か」とでも思ったのだろう。

結局そのブラは誰のものだったのか、なぜソファの後ろに落ちていたのか。

何と、ブラを見つけて天を仰いでいた当人が、「思い出したわ」と言い出した。

「私、数カ月前に Penny’s ペニーズ(アイルランド判『しまむら』のようなファストファッションの店)で何枚かブラを買ったんだけど、間違ってサイズが合わないのを買ったもんだから、リンジー(別の清掃スタッフ)にあげたんだった。そのときに一枚が袋から落ちたんだね。」

すっかり忘れていたということか。人騒がせなもんだ。

ダブリンのわが家の近くの桜はそろそろ葉桜に。