旅も終盤。シチリアもマルタ島もよかったがきりがないので、地中海旅行記の最後として船上での様子をまとめてみる。

旅慣れた友人とは船室(キャビン)こそいっしょだったものの、寄港地ではほとんど別行動、船の中でもそれぞれ違うことを楽しみ、夕食時にその日の出来事をお互いに語り合うのが日課だった。

船室のある一帯はデッキ(階層)ごとに都市の名前が冠されているのだが、私たちのデッキは何と、ダブリン Dublin。

ダブリンの見慣れた観光地の写真が廊下に飾ってある。地中海にいるのになあ。

同じ階に何十、何百と船室があるので、迷い防止のためにドアにマグネットを貼りつけている人たちもけっこういた。私が偶数部屋と奇数部屋の場所が分かれているのに気づかず迷ってしまったのは言うまでもありません。

船内はどこもキラキラしている。

巨大な客船には常に数千人の旅客が滞在し、2000人強の乗組員が24時間体制で働いていた。船の旅が充実したのはクルーのおかげ。みな礼儀正しいが陽気でノリがよく、レストランやアクティビティでよく会うクルーとはすぐに顔見知りになった。

ある日の夜、いつもと違うレストランに行くと、インドネシア出身のウェイターが私をその日の朝にも見たと言った。朝食のバイキング会場で「Good morning madam, how are you?」と言って私にクッキーを取り分けてくれたのが彼だったのだ。「これからヨガをするんですよ、楽しみ」と応えたのだが、そんな短いやりとりを交わしただけの私を覚えてくれていたことに感動した。

乗組員は世界中から集まり、半年から8カ月ほどの契約で船に泊まり込んでいるようだ。船の異次元のような豪華な雰囲気は客のためのもので、中で働いていれば過酷なこともあるに違いない。「あさって国に帰るんですよ」と笑顔がとまらないクルーに会ったときにには、本当にお疲れさまと心からねぎらった。

友人がもっぱらスパでゆったり過ごしているあいだ、私はアートと手作りを楽しむワークショップに参加することが多かった。ワークショップは「水彩画」「折り紙」「カード作り」などテーマを変えて毎日、一日に数回行われていた。担当者はジョージア(旧グルジア)出身の若い女性。ほんの2週間前にこのクルーズ船での仕事を始め、「やっと慣れてきたところ」だった。すべてのワークショップをひとりで切り盛りしているが、「私は他の仕事はしなくていいので、自由になる時間がかなりあってラッキー」だとも言っていた。

曼荼羅の塗り絵。色を自分で決めて黙々と塗り込んでいく作業を続けること 1時間半。腕は疲れたがとても集中でき、幸せなひとときだった。

チビタベッキアの教会で見た青い着物姿の聖母子像を白い紙に描き、自分だけの「本のしおり」に。

上階にあるジムの一角でパノラマの景色を見ながら朝のストレッチ。船にはヨガやエアロビクスのインストラクターもいて、毎日何かしらのエクササイズができた。

全長300メートル以上、幅50メートル近い客船はまさに動くエンタメ施設。2つのシアターが備えられており、夜にはミュージカルやアクロバットショーが行われた。有名な作品のハイライトを中心に構成されて30分強で終わるので、夕食の前後に毎夜のように通った。

地中海を船が進む様子が見られるシアターのひとつ。イベントのない時間帯には、静かに座って日記を書いたり本を読んだりする落ち着ける空間だった。あるときには飛び入り参加型のカラオケ大会が行われていた。人がまばらだったのでもちろん一曲歌いましたよ。バングルスの『エターナル・フレーム』。

この日のショーはミュージカルやオペラの定番曲がメドレーで聴けるコンサート。オペラ歌手の声量と声の豊かさにうっとり。客席も盛り上がった。

バルセロナに戻る前日は、どこにも寄港せず、終日洋上で過ごす日だった。私のこの日のお目当ては、デッキ20からデッキ8までの数十メートルの高さを滑り降りる滑り台(スライド)だ。

中央をくねくねと走るパイプの中を滑り落ちるスライドは、この船の見どころのひとつ。この写真はジェノバに着いたときに撮ったもの。

船の上階のデッキでスライドに乗るために並ぶ。さすがに寒いので羽織るものが必要。

いざ、出発。最初にスピードを出すのに少し手こずったが、数秒後にはかなりのスピードでパイプの中を落下。いやースリル満点。

下階に到着。並ばなくてもいいのならもう一回やってました。

この日はシアターに何百人も集まってビンゴゲーム大会が催された。私たちもひとり 20ユーロ投資し、賞金 1000ユーロを狙った。短いけれどいい夢を見させてもらいました。

ランチはお鮨。ここでの食事はクルーズ代には含まれていなかったが、20数ユーロでこれだけのものが出てくるのだから、ダブリンより安い。お皿が大きいだけで、お鮨のサイズは普通。

これまで、クルーズ旅行は年配者かお金持ちがするものだとばかり思っていたが、この客船は若い層と家族連れもターゲットにしていて、20代、30代と思しき人たちや子どもを連れた家族連れも多かった。小さい子どもを預ける施設もあるし、ティーンエージャーの集うゲーム・スポーツエリア、大人にはカジノやショッピングアーケードもあり、誰でも一週間くらいなら飽きずに過ごせる。

まだ足を踏み入れていなかった船内のあちこちを探検(?)して見つけたのは、室内プールエリア。外のプールだとまだ寒いしね、と納得。寄港地に寄らないこの日は混んでいた。

私たちの船室のバルコニー。2月下旬はさすがに外に出ているのには肌寒かったが、いつも素晴らしい眺めが広がっていた。

いつものレストランでの最後の夕食。翌日バルセロナで下船する人が多いので、食事のあとはお別れのお祭りモードに。クルーとともに席の間を踊り歩いた。

7泊8日の船旅を終えて無事にバルセロナ港に到着。港からタクシーで空港に向かい、かなりの余裕をもって午後早いダブリン便に乗ることができた。洋上から一遍、機上の人へ。

お世話になった客船。誰もがつつがなく旅ができる平和な世の中であってほしい。

ダブリン空港は聖パトリック・デーの装い。