私の職場ではここ数年、清掃スタッフの入れ替えが目まぐるしい。
清掃のシフトは、一日に2つある。最初のシフトは早朝から午前中にかけてで、数人の清掃スタッフが担当している。私たち従業員のほとんどが出勤する前に各オフィスや廊下などに掃除機をかけたり、トイレ掃除をしたり、ゴミを集めたりするのが主な仕事だ。朝のシフトのスタッフが休憩室で一息入れるころ、昼間のシフトの人が来て朝の人たちと引継ぎをする。昼間のシフトは一人だけだ。
私と年の頃が同じリンジーは、朝のシフト。掃除機をかけている彼女に「Morning!」と声をかけると、「ああ〇〇(私の名前)。How are ya?」と疲れた声を出す。でも目の奥にいたずらっ子のような輝きがある。
更年期のいろいろな症状で悩む私たちは、顔を合わせるたびに「きのう眠れなかった」「急に最近冷え込んで手が動かない」と楽しく悩みを言い合う。リンジーはシングルマザーとして子どもを3人育て、今では孫もいる。ずっと介護をしていたアルツハイマーの母親を最近亡くした。
清掃スタッフのほとんどは外国人だ。以前はルーマニアやリトアニアなどの東欧圏の女性が多かったが、ここ数年は南米からの20代の若者がほとんど。学生ビザの延長ができず、本国に帰らなければならなくなったケースもある。ビザの問題がなくても、ちょっと英語が上達すると別の仕事を見つけるため、半年もすれば新しい学生バイトに変わっている。
私たち職場のスタッフと、私たちの職場に雇われている立場の清掃スタッフは、同じ休憩室を使っている。そこには上下関係はなく、彼らに何かを頼むときには、必ず「Sorry」と前置きし、「2階のトイレのトイレットペーパーがないんだけど、補充してくれないかな」と丁寧にお願いする。そもそも英語で話すと敬語など気にしなくてよいし、誰とでも対等に話せるのが私は好きだ。
ただ、清掃スタッフ同士のあいだで、ここ数年摩擦が生じている。
もめている2人の中心人物は、アイルランド人のマネージャーと、長年働いている外国人のスタッフだ。外国人といっても私と同様に20年以上アイルランドに住んでおり、息子さんの一人と会って話してみると、完全にダブリンっ子の英語だった。だが彼女の話す英語は片言の域を出ない。休憩室で数人で面白い話をしているときに、彼女が違うタイミングで笑っていたりすると、じつは理解していないんだろうな、と感じてしまうことがある。私も人のことは言えないが。
問題の原因は、やはり言葉の壁なのだろうと思う。
「ここの掃除がやり終わらなかったから、まずそこをやってね」というような朝と昼の引継ぎ、前日からの引継ぎがうまくいかないと、どこかで誰かにしわ寄せがくる。アイルランド人のスタッフは、英語がなかなか通じないスタッフに頼んだことがなされていないことが続くと、「彼女は仕事をしない」とだんだん決めつけてしまうことになる。逆に外国人の方は「アイリッシュは口ばっかりで手を動かさない」となる。
ただ、彼女は英語の読み書きは聞き取りよりもよほど上手だ、と新しい清掃スタッフから聞いた。そうだったのか、知らなかった。今さら難しいかもしれないが、英語がわからなければ正直に言い、引継ぎにメモを取り入れたりして、何とか摩擦を解消してほしいと思う。ストレスからか体調を崩し、病欠している彼女が心配だ。