職場の休憩室で、アイルランド人の同僚の一人が「MUJI が閉店したって知ってた?」と聞いてきた。え、と私は言葉に詰まった。2002年のオープン当時にアルバイトをしていた懐かしの空間がなくなった?

「MUJI、Dublin、closed(閉店)」とネットで検索すると、確かに閉店についての記事がいくつか見つかった。Irish Independent は8月19日付けの記事で「Design and lifestyle shop Muji closes after 20 years in Dublin」と書いている。

閉店のニュースについて元店員の友人にメッセージを送ったら、「え、何それ、本当? O! Shoot, really?」と返信があった。20代の数年間をこの店で過ごした彼にはかなりショックだろう。

2022年に撮影したときの MUJI。グラフトン通りからちょっと入った好立地のわりに静かな Chatham Street にあった。

今年の頭に行ったときには、スープやスナックなどの食品のコーナーができていた。文房具と収納商品をメインで取り扱っていたが、いよいよ食品も売り始めたのかと嬉しくなった。

れんこんチップを手に取ったが、3.5ユーロもしたので購入は断念。買っておけばよかったなあ。閉店セールも見逃してしまった。

オープンは 2002年の秋。私がアイルランドに移って半年ほどのことだ。私たちオープニングスタッフとして雇われた10人ほどは、2週間ほど商品やレジの打ち方について学ぶ研修を受けた。

MUJI ダブリン店は、アイルランドでレストランやミニシアターなどを手広く展開している Eclective という企業(当時は Press Up)が日本の良品計画とフランチャイズ契約を結んで出店したもの。つまり独立店で、少なくともオープン当時はかなり自由にやっていた印象がある。

研修中、同じ会社の傘下にあった Wagamama という日本料理のチェーン店に数日ランチを食べに通った(Wagamama Ireland は現在は別の会社が経営している)。大味で量だけ多いラーメンにがっかりし、こんなものが日本料理だと思われたら困る、と憤慨したことをよく覚えている。

何しろ2002年ごろはアイルランドの景気はまだまだよかった。オープンして数週間するとクリスマス需要でセールスが上がり、店長が嬉々としてその日の売り上げを発表した。発表の前には「今日の売り上げはいくらか」と店員が一人ずつ推測し、一番近い数字を言った人は20ユーロくらいまでの好きな商品をゲットできた。はい、私は一度も当てられませんでした。

私は日曜にシフトが入ることが多く、同じくバイトの男子学生と2人で地階の文房具売り場を担当した。彼とは話が合い、いっしょに働くのが楽しみだった。彼も含めて当時の男性スタッフは4人中3人がゲイで、仕事のあとに The George というゲイバーに遊びに行くこともあった。そんなことは日本では経験がなかったので、まさに世界が開けたというか、日常と違うワクワク感があった。

先月、店の前を通ったときには、完全にシャッターが下りていて、貸店舗の看板が出ていた。「MUJI のバウチャーを持っている方はここにお問い合わせください」と書いた張り紙を私といっしょに張り紙をのぞき込んでいだ女性が、「信じられない」とかなりご立腹の様子で立ち去った。

先週行ったロンドンの Tottenham Court Road にある大型店 MUJI。ロンドンには現在 6店舗ある。

私がダブリンの MUJI で働いていたのはたった半年ほどだったが、何というか、この店は私のアイルランド生活の基礎を築く一端を担ってくれた。閉店は私にとっては「the  end of an era」、一時代が終わったという感じか。やはり寂しい。