アイルランドで日本語を教え初めてずいぶん経つが、数を教えるのはややこしい、といつも感じる。

「いち、に、さん」と 1 から 10 までの数詞を教えるのも一筋縄ではいかない。4 は「し」と「よん」、7 には「しち」と「なな」の 2通りがあるからだ。

10 以降は、11は「10+1、ten plus one」で「じゅういち」、20 は「2x10、two tens」で「にじゅう」、こんな感じで 99 までいけると教えると、「フランス語に比べると簡単だ」と安心する学習者もいる。アイルランドの中高の学校教育では、外国語を履修する人の約半数がフランス語を学ぶので、フランス語の素地がある人が多いのだ。

フランス語は 1 から 20 までの数字を覚えるのからして一苦労なのに加え、70 以降をかぞえるときには 20進法も使って表すという。90 などは「4x20 +10、quatre-vingt-dix」になるそうで、これだけで私は挫折すること必至だ。

それに比べると、確かに日本語の数詞はシンプルに見える。しかし、問題は助数詞である。私はたいてい最初の助数詞として「今、何時ですか」「〇時です」と「時」を教えるが、学習者にはいくつかの数字の読み方に注意を向けてもらわなければならない。

  • 4時は「よじ」、「よんじ」ではない。
  • 7時は「しちじ」、「ななじ」ではない。
  • 9時は「くじ」、「きゅうじ」ではない。

「何時」がわかれば「何分」も教えたくなるが、「ふん、ぷん、ぶん」の三通りの読み方のある「分」を導入するのは敷居が高く、「『5分(ごふん)』と『10分(じゅっぷん)』、それから、30 分という意味の「半(はん)」を覚えておけばいいよ」と私は妥協する。しかしこれでさえ「10」は「じゅっ」と読まなければならないし、英語でよく使う15分という意味のクォーター quarter という言葉は日本語の時間表現では使わず、「quarter past ten」は「10時15分」と言うし、「quarter to ten」は「9時45分」だと説明することが必要だ。

この辺までくると、生徒の「日本語って簡単」という高揚ムードは影をひそめ、「次は何を覚えなければならないのか」というけん制モードになる。

クリスマスの飾りつけが目につくダブリンの街中。グラフトン通りの老舗店、ビューリーズ・カフェのショーウィンドー。ジンジャービスケットの家がかわいい。

日本語には数百も助数詞があり、学習初期の段階でも「何人」「何歳」「何月」「何枚」「何本」「何杯」などいくつもの助数詞が出てくることは、学習者の顔色をうかがいながら言ったり言わなかったりする。最初からあまりうんざりさせてはならない。

助数詞は何も日本語だけにあるのではなく、中国語、韓国語、ベトナム語などの多くの東アジア・東南アジアの国の言語にある。ただ、日本語のように、助数詞によって特定の数字の読み方がころころ変わるのかどうかは、私は知らない。

そもそも日本語のかぞえ方には「いち、に、さん…」と「ひぃ、ふぅ、み…」と 2通りあり、「いち、に、さん」が漢語の音読みで、「ひぃ、ふぅ、み」が和語の訓読みだ。 つまり、7 の「しち」と「なな」のふた通りの読み方は、「しち」は中国語の発音に基づく音読み、「なな」は日本固有の読み方の訓読みということだ。

基本的なルールとしては、助数詞が音読みであれば数字も音読み、助数詞が訓読みであれば数字も音読みになるそうだ。ただ、日本語の学習者にとっては、どの読み方が「音読み」なのか「訓読み」なのかはわからないし、そもそもこのルールは例外だらけだ。

例えば、「枚(まい」も「回、階(かい)」も音読みだが「7枚」「7回」「7階」の 7 は「なな」と訓読みになる。さらに、「4年」は訓読み(よねん)、「7年」は音読み(しちねん)というように、同じ助数詞でも 4 と 7 の音と訓の読み方が混ざることが少なくない。「4時・7時」も「4人・7人」も同様に、「よ(訓)」「しち(音)」と音訓が混合している。 だからもう、学習者には「すみません、助数詞ごとそれぞれの数字の読み方を覚えてください」と頭を垂れるしかない。

「なな」でも「しち」でもどちらでも大丈夫な助数詞もあるし、日本語の母語話者だって間違えることはある。間違えすぎて、公式の場でなければ「7年」を「ななねん」と言ってもよしとされている。「しち」は「いち」と聞き違うかもしれないから、放送の現場ではわざと「ななねん」や「なながつ」と言ったりするしね。

今年、2025年は令和7年。あれ、「ななねん」だっけ、「しちねん」だっけ、と迷ったら、マリリン・モンローの『七年目の浮気(しちねんめのうわき)』を思い出そう。「しちにん」か「ななにん」かで迷ったら、黒澤明の『七人の侍(しちにんのさむらい)』が役に立つ。若い人たち、そして日本語の学習者にはピンとこないだろうけど。