しばしお別れ、ヒュー・レイン美術館
印象派から現代美術まで質の高い作品を誇り、毎週のように無料でクラシックコンサートも催していたヒュー・レイン・ダブリン市立美術館が、先月末、2025年9月28日をもって休館した。寂しいなあ。


この人が美術館設立に尽力したヒュー・レイン Hugh Lane 卿(1875 ‐ 1915)。アメリカの画家ジョン・サージェント John Singer Sargent の手によるポートレート。レイン卿が集めた作品の一部は、ヒュー・レイン美術館とロンドンのナショナル・ギャラリーが共同で管理をしている。

お隣にはアイルランド人画家ジョン・ラベリー Sir John Lavery が 2人目の奥さんヘイゼル Hazel を描いた作品が並ぶ。彼の作品をもっと見るならアイルランド国立美術館へ行きましょう。

ステンドグラス展示室にある一作品。最近その評価が再燃されているアイルランド人女性アーティスト、Evie Hone イーヴィー・ホーン(1894 ‐ 1955)の The Deposition。
休館の理由は、ヒュー・レイン美術館のあるパーネル広場の北側 Parnell Square North 全体を、新しい文化地区 cultural quartre として再開発をするため。1930年代に建てられた美術館の一部のセキュリティや環境設備システムをグレードアップすると同時に、新設されるダブリン市立図書館と美術館を直結させ、外に出なくても図書館と美術館を行き来できるようになるそうだ。
「少なくとも3年は休館」というニュースを聞いて、ということは5年ぐらいかかるな、と思ったのは私だけではないはず。アイルランド国立美術館 National Gallery of Ireland の本館の改修工事が、予定より1年半遅れ、丸6年かかってようやく2017年に完成したことを記憶している人は多いのだ。
ヒュー・レイン美術館が休館になる数日前、木曜の夕方に夫といっしょに美術館を訪れた。木曜は通常より遅く夜8時まで開館していて、ここ数年、いろいろな催しものによって集客を試みていた。
この日の夕方は、特別展示のガイドツアー、ヨガやデッサンのワークショップなども行われていたし、私たちのように「しばらくのあいだの見納め」に来ていた人も少なからずいたのだろう、館内はなかなかの盛況だった。
特別展示のツアーに参加すると、担当したガイドさんは常連の人だった。本当によく勉強している人で、アーティストから実際に聞いた話なども交えて話をしてくれ、作品を知るうえでいつもとても頼りになった。この日のツアーのあと、私たちがほかの展示作品を見ていると、彼女は娘さん家族と合流したらしく、お孫さんと絵について話しているのが聞こえてきた。美術館が閉まるのはこの人にとっては大きな変化だろう。ただし、美術館は休館のあいだも、ダブリン市内のあちこちに会場を変えながら、収蔵している作品についてのトークイベントやアートコースなどを開催していくそうだ。
美術館で開催されていた日曜コンサートは、これからどうなってしまうんだろう。と思っていたら、これも場所が変わって続くことがわかった。
ヒュー・レイン美術館(写真左手)の通りの先にある教会が、新しいコンサート会場。

Abbey Presbyterian Church アビー長老派教会。

毎週ここが会場だとは限らないようだが、美術館よりも収容人数は多いのは明らかで、チケットが取りやすくなるかもしれない(月曜の10時にネットで発売される無料チケットはすぐに売り切れる)。
そして、先週の日曜日に行ってきました、移転して最初のコンサート。ヴィオラとピアノの二重奏だった。友人のノーラを誘って行ったが、彼女は教会の席に着席した途端、「あ、もう暖房がついているのね」と上方を見やった。確かに教会の左右の壁に赤外線ヒーターのようなものがいくつも取りつけられていて、オレンジ色の光を放っていた。
「お金あるのよ、この教会」とノーラは言い放った。おそらくカトリックの教会なら、いくら肌寒くても10月初めに暖房をつける余裕はないそう。
コンサートのあとは、教会から数分歩いて Lovingspoon というカフェで昼食を取った。コーヒーとサンドイッチで一人10ユーロするかしないか、というのは今のダブリンでは破格とも言える値段。コンサートやランチに、この辺りをまた頻繁に訪れることになりそうだ。

私はツナチーズトースト、ノーラはたっぷりベーコンの乗ったパンケーキ。ベーコンが多すぎて私に一枚くれました。

