銀行でも博物館でも「プライド月間」
2015年5月、アイルランドは国民投票の結果により同性婚が合法化され、性的志向にかかわりなくすべての市民が同じように結婚できるようになった。
私は地方選挙 local elections の投票権はあるが、アイルランドの国籍はもっていないので国民投票 referendum はできない。それでも同性婚の国民投票のときは、自分なら Yes、No のどちらに投票するか悩んだし、友人たちとも話し合った。アイルランドが変化のうねりの中にいて、何だか国中が興奮していたように思う。
アイルランド国立博物館 National Museum of Ireland では現在、同性婚の権利を問うた 2015年の国民投票の際のチラシなどが特別展示されている。
6月はプライド月間。LGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど)のコミュニティの権利と文化を称え、支持をする期間として毎年6月に世界中で開催されている。同性婚の合法化から10周年の今年は、アイルランドでは例年以上に盛り上がっているように感じる。
ダブリンにある国立博物館、ナショナル・ギャラリー(アイルランド国立美術館)、そして IMMA(アイルランド現代美術館)で今月は LGBTQ+ の特別ガイドツアーやワークショップが行われる。そのうちのひとつ、国立博物館の装飾芸術と歴史博物館のツアーに参加してみた。
アイルランドに 4つある国立博物館のひとつ、装飾芸術と歴史博物館は、旧コリンズ兵舎 Collins Barracks にある。イギリス統治下、アン女王の測量総監で著名な建築家だったトーマス・バーグが、18世紀はじめにここに新古典主義の兵舎を設計。彼はトリニティ大学の図書館の設計も手がけている。
LGBTQ+ツアーは博物館の 2階のこの廊下からスタート。アン女王はここに立って、中庭を埋め尽くす兵士たちに手を振った。アン女王といえば、映画『女王陛下のお気に入り』(The Favourite: 2018)でも描かれたように、同性愛の嗜好があったと記録にも残っているそうだ。
ツアーで一番盛り上がったのは、アイルランド出身の家具デザイナー、建築家だったアイリーン・グレイ(Eileen Gray 1878〜1976)の常設展示室。こちらはアイリーンの代表作である椅子。別室には同じデザインの椅子が置かれていて、誰でも自由に座れるようになっている。実際に座ってみるとよくわかるが、正面座りで両手をひざに置くいわゆる「お嬢さん座り」から解放され、肘をアームレストに置いたり背もたれにかけたり、斜めに座って足を組んだりと、自由な座り方ができるのが特徴的だ。
『E.1027 - アイリーン・グレイと海辺の家』(E.1027 - Eileen Gray and the House by the Sea: 2024)がちょうど映画館で公開されている。アイリーンはたいへんプライベートな人物だったが、生涯を通じて数人の同性のパートナーがいたらしい。
昨日、仕事の用事で近くの銀行に入ると、LGBTQ+ の象徴である虹色の旗が壁面にもカウンターにもひしめきあっていた。お堅いイメージのある日本の銀行では、レインボーの旗が揺らめくことがあるのか、とふと考えてしまった。
旗にはアイルランド語(ゲール語)でダブリン Baile Átha Cliath と書かれている。ダブリンでプライドのパレードなどを組織するボランティア団体が提供したようだ。
1870年代に建てられた Dame Street にあるこの AIB 銀行は、歴史的建造物としても重要で、数年前には天井などの装飾の修復を一年以上かけて行っていた。
今月はダブリンの店のショーウインドウがレインボー色に染まる。
と思ったら、こちらのお店は父の日 Father’s Day の飾りつけ。アイルランドでは、父の日は日本と同じく 6月の第 3日曜日、母の日は Lent(キリスト教の受難節、または四旬節)の第 4日曜日になる。